シロちゃんとコウを、会わせたくない。だからシロちゃんの話はしたくない。
だってコウを、取られたくないんだ。
コウがいなくなったら、私どうなるんだろう?
ホウッと空を見上げる。
ダメな自分。やっぱり自分は、お兄ちゃんには敵わない?
そんな自己嫌悪のどん底から、自分を救い出してくれたのがコウ。
このままでいいんだと思わせてくれる、暖かい存在。
大好きな人。
だからどうしても、取られたくない。
安績さんにでも知らせる?
いやダメだ。突然唐草ハウスへ戻るなんて言い出したら、きっとコウに疑われる。
今ですら変に思われているのは間違いない。それに今日は、久しぶりに二人でゆっくりできる。
今まではシロちゃんと会わせたくなくて、コウを唐草ハウスへ近寄らせたくなかった。だから、二人一緒の時間も取れなかった。
次にこうやって二人でのんびりできるのは、いつになるんだろう?
そこで思わず、生唾を呑む。
これからずっと、こうやってシロちゃんを気にしながら生活していくことになるのだろうか?
そんな事が、できるのだろうか? いつかは、シロちゃんとコウは出会ってしまうのではないだろうか?
だが、たとえそうだとしても、今ここで、自分の口からシロちゃんの名前は出したくない。
今はまだ、隠していたい。
でも、じゃああの写真は?
ぎゅっと掌を握る。
安績さんは携帯もパソコンも触らない。だからこっそりメールで知らせるなんて無理。
トイレって言って、離れて電話かけてみる?
でも、現物もなしにどうやって電話だけで知らせればいいんだろう? うまく伝わる?
そもそもどんな事態が起こっているのか、ツバサ自身にもわからないのだ。何事も起こっていないのかもしれない。ツバサの考え過ぎなのかも。
そうだよ。
必死に言い聞かせる。
考え過ぎだよ。
シロちゃんも美鶴も、きっと明日になったら元気に会えるよ。
グッと強く思い込ませると同時。
「――― ひっ!」
突然の暗闇に、思わず叫び声をあげる。
大きな掌。
パッと明るくなった視界には、少し垂れ目。
「あっ」
しまった。また聞いてなかった。
慌てて言い訳しようとするツバサの口を、コウは片手で塞ぐ。そうして、立ち上がったツバサの両の肩に手を置き、グッと力を入れた。
「座れ」
「え?」
聞き返すツバサに少し首を傾げ
「座れよ」
「えっと」
「座れって」
強引に座らせ、そうしてコウはツバサの前に立つ。
「あの」
さすがに怒られるかな?
そう慄くツバサの上に、コウはゆっくりと身を屈めてくる。
うわっ 叩かれるかな?
思わず目を瞑る。だが逃げようとは思わない。
だって悪いのは自分なのだから。
コウに叩かれたことはないが、それも仕方ない。
肩に置く手はそのまま。
手は上げずども怒鳴ってくるぐらいはするだろうと、覚悟するツバサの耳に低い声。
「キス、していいか?」
――― は?
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